
第五話:一発逆転劇
元ビジネスパートナーによる不義理行為は、イケゾエガレに衝撃を与え、そして大いに憔悴させた。
確かに憔悴したもののイケゾエガレ&ロミオはそこで終わることはなかった。
元不動産社員のS氏の悪意ある不当請求に対して、イケゾエ兄弟はお金をかき集め、滞納金300万円を何とか支払うことができた。

その不正請求300万円はイケゾエ兄弟が支払う必要のない金である。
それでもイケゾエ兄弟は愚痴をこぼしながらも「本来は3億円ほどの損失になるところを300万円で済んだのだ。むしろ300万円を支払えたことに感謝しよう」と誠実に滞納金とやらを支払った。
騙すよりも騙される方が良いとはいわないが「それでも四の五の言わずにお金を支払う姿勢」、これがのちにイケゾエガレ&ロミオの社是「人に媚びず、富貴に媚びず、時代を編む美意識、それが琳派」に通ずる経営方針となる。
しばらくガレは心の安定を得るため、宝石商の仕事から一時的に離脱した。

心の休憩も兼ねてイケゾエガレは職業安定所が紹介するIT関連学校に通い、そこで学友と出会い、ホームページの作り方を学んだ。
ジュエリー販売サイト及びネットショップを作るうえでホームページ制作知識だけでなく、改めて古今東西の宝石資料を集めていたイケゾエガレ&ロミオは、ドイツカットで有名なムーンシュタイナー親子と21世紀のルネ・ラリックと呼ばれて久しいローゼンタール氏のことをこのときに初めて知った。

また、この頃だったと思うが大手ECモールを通じて、駆け出しの宝飾デザイナーとしてイケゾエロミオが海外に製造依頼していたジュエリー数十点がいきなり高額で取引が行われた。
二人は奇跡だと思った。
あとになって分かったことだが「高額取引の理由は大粒の天然石をふんだんに使用していること」だった。

一般的論でいえば、天然サファイア20ct以上(中石)、天然ダイヤモンド1ct以上(脇石)の豪華なジュエリーは卸及び店頭販売価格でも300万円から600万円ほどするが、イケゾエガレ&ロミオの作品の場合、そうではなかった。
イケゾエガレ&ロミオの作品販売におけるモットーは、「最高品質のジュエリーを一般消費者が買いやすい適正価格で提供する」ことであり、宝石商等が陥りやすいぼったくり商売に一切関わらないことである。
そのことが支持され、多くの方々がイケゾエガレ&ロミオ兄弟を心から信用し、パトロンになってくれたというわけだ。
今思えば「努力と誠実は何かしらの方法で報われるのだ」とこの時ほど心底思ったことはない。
まさにそれはオセロゲームのように黒を白に塗り替えた一発逆転劇だった。

アートジュエリー(芸術的なジュエリー)やアール・ヌーボーデザインが熱狂的に支持され、適正価格による高額取引により、資金難に陥っていたイケゾエガレ&ロミオは水を得た魚のように息を吹き返した。
多くのパトロンの支持のもと、イケゾエガレ&ロミオは「アートジュエリーを主とする宝飾品を企画販売する宝石商」として、2010年4月1日に大阪で法人登記をすることになった。

地元の兵庫県姫路市での法人登記ではなく、大阪府大阪市での法人登記の理由は姉アヤコのアドバイスによるものだ。
会社設立のために単独大阪に赴任したイケゾエガレは、ロミオの勧めもあり、宝石の知識を総復習をするため、大阪の某宝石学校に半年間ほど通うことになる。

その後、大阪の姉夫婦が経営する会社の一室を借りて、私たちイケゾエガレ&ロミオは個人自営業から正式に法人として第二創業期を迎えることになった。法人設立後、会社を軌道に乗せるため、イケゾエガレ&ロミオとその家族は姫路市から大阪市に家族ごとしばらくの間、転居することになる。


ちなみに宝石業界は全盛期で3兆円規模を誇る産業だったが、現在は1兆円程度の産業だ。
それゆえに宝石業界は傾斜産業と呼ばれて久しく、利益を上げるために多くの宝石商はぼったくり商売を当たり前のように行ってきたが、私たちイケゾエガレ&ロミオは真摯にパトロンであるお客様に寄り添い、適正価格での販売を心がけてきた。
結果、これは後日談にはなるものの、2010年から2018年の8年間にかけて、既存の宝石店の大半は業界を震撼させた事件がきっかけで倒産・閉店に追い込まれるものの、私たちの会社は奇跡的に生き残ることができた。
現在では大手宝石商とはいかないが、中堅宝石商と同類の扱いを受けて現在に至る。


大阪から故郷姫路にもどるまでの10年間のなかで起こった出来事を赤裸々に語りたいのは山々ではあるが、イケゾエ宝飾家の公式通販メルマガ(無料)に登録された諸君にのみ「宝石商として生計を立てていくためのノウハウ」も含めて、詳細にお伝えしたく思う。

ざっと思い出すだけで大阪での10年間を語るのであれば、多くの出会いがあった。
宝石商リチャード氏の出会いをはじめ、清王朝の皇帝の末裔、マルタ共和国大統領からも称賛された老画家、現代日本を代表する経営コンサルタント、バルト三国の一国「ラトビア共和国」某大使(投資担当)との会談、英国王室からの礼状など語りに語りつくせないほどの出会いだ。

経営面においても様々な出来事があった。
同業者の倒産廃業・合併、売掛金の未回収、姉夫婦の弾圧や従業員の裏切りからの社名変更、経営危機による事務所の移転、適正価格での天然石ジュエリーを販売するために新会社「琳派株式会社」の設立など、宝石商としての経営方針も伝えることができれば幸いだ。