第三話:偽物ブランドに騙された日々

双子の兄ガレから弟ロミオに経営を託された中古ブランドブティック(当時はUSEDセレクトショップと呼んでいた)は山陽姫路駅前の山陽百貨店の裏通りにあった。

この中古ブランドブティックはロミオが全責任をもって店舗運営をしていた。

この店舗を開店するにあたり、必要な資金はイケゾエガレの個人信用のもとに大手都市銀行が融資してくれたのだが、そこで発覚したのが守銭奴マサトの過去の融資焦げ付きだった。

その金額はざっと軽く見積もって1,000万円だった。

兄ガレに対する銀行融資の条件は中古ブランドブティック事業成功後、父親マサトの融資も可能であれば支払ってほしいというものだった。

ガレは「父親とは別人格であり、借用書も本人が交わしたもので私たち兄弟にはまず関係ないことですが、御行との御縁を大事にしたいので事業成功後は支払う意志はあります」と当時の担当者に伝えたところ、その熱意と誠意が伝わり、無事に開店資金の調達に成功した。

マサトは毒親のほかにお金に対してもルーズ(のちに発覚したが返済ができなかったため、融資を踏み倒そうとしていたらしい)であっただけでなく、もはやイケゾエガレ&ロミオ兄弟の事業成功の障壁になりつつあった。

これは親の存在が子の成功を邪魔する典型的な例ともいえる。

ガレからロミオへと経営委託されてから1年数カ月後のことだった。

あの忌々しい事件は起きた。

兄イケゾエガレがブランド仕入の際に「偽物ブランド」をつかまされ、それを日本でロミオが顧客に販売してしまい、あろうことか「商標権違反」として刑事事件となったのだ。

これは兄ガレがブランドの「真贋確認」を怠ったというわけではなく、仕入時にブランドホルダーに真贋を確認した上で「まんまと中国の悪徳商人」に騙されたというわけだ。

つまり巧妙な手口による中国人サプライヤーに騙されたというわけだ。

中国人が偽ブランドを売る方法としては2種類の方法がある。

一般的な方法として堂々と「偽物」といって販売する方法、もう一つは巧妙な手口ともいえる小細工を施して販売する方法だ。

巧妙な手口、具体的には「偽物と本物の部品」を織り交ぜて販売する方法だ。

部品の割合は正規部品20%に対して模倣部品80%だ。

これが意味するところは正規品1個に対して、模倣品5個が製造できるということになる。

つまり純正品と社外品を混ぜて販売することでブランドホルダーは「改造品のため修理等の補償外」、偽物ではなく「改造品」として認識させる方法だ。

イケゾエガレは後者の「巧みに改造された製品」をつかまされたといえる。

例えば10万円の正規品1個に対して「彼らの原価は2万円、売値は6万円」にすることにより、あたかも「アウトレット品」であるかのような印象を与え、仕入れにおいて「正規品」と誤認させる方法だ。

この方法を堂々と中国の有名企業が行っているから、さらに質が悪いといえる。

通常、国際取引ルールを無視するそのような悪徳企業は国内外市場から排除されるのが資本主義・自由主義経済なのだが、そこは共産主義国家「中華人民共和国」である。WTOの国際取引ルールなどお構いなしだ。

というのも悪徳企業の後ろには地方共産党の幹部がおり、悪事のもみ消しのための「賄賂」は日常茶飯事だからだ。

数カ月間の捜査の上、警視庁の担当者はイケゾエロミオに大変に同情的であった。

警視庁の担当者いわく。
「事件を軽んじるわけではないが、補償や損害賠償(精神的苦痛)は民民間で解決させれば良いだけであって、こんな小さな商標権違反は事件にさえ必要はなかった。そもそも告訴状を受理したこと自体がおかしい」

事実、神戸地方裁判所姫路支部の担当検事は、「被害届けを受理すれば警察は動かざる得ず、警察が動く場合は事件の主犯格をあげなければならない。仮に君たちに罪がなかったとしても誰かを主犯格にしなければならない。残念ながら日本の法律はそういう仕組みになっている」と取り調べのおり、書記官の記録には残さずにイケゾエガレ&ロミオ兄弟に言った。

「君たちはUSEDブランドの仕事を辞めたほうがいい。この手の仕事は反社会的勢力が必ず関わってくる。今回、君たちに対して被害届けを出した人間はそういう類いの人間だ。君たちを脅し、大金をせしめようとしたが君たちはそれを厳として拒んだから権力を使って君たちを悪党に仕立て、人生を終わらせようと刑事告訴してきたわけだ」

さらに担当検事は「告訴状を受理した刑事の人間関係を調べれば分かることだ」と意味深に言った。

毒親マサトの聴取のおりもその検事は「イケゾエガレ&ロミオ兄弟に罪があるというよりは、事の原因はあなたが働かないことにある」と父親マサトを責めるほどだ。

ただ刑事事件になったことで、この仕事を続けることができなくかもしれないと思い、イケゾエロミオは大阪の宝石学校を志半ばにて自主退学せざる得なかった。

ロミオが宝石学校を自主退学した数年後、告訴状を受理した刑事は反社会団体のつながりを上層部から指摘され、依願退職したと風の便りがイケゾエロミオに届いた。

日本の警察機構の汚職、内々で処理されたとはいえ、決して気持ち良いものではない。

聴取の結果、二人の息子イケゾエガレ&ロミオ兄弟は「不起訴」となった。

ときに人生において不幸な出来事というものは連続することがある。

連続する不幸な出来事を乗り越えていける人間こそ「成功者」といえるのだが、まさにイケゾエガレ&ロミオ兄弟は「人生の試練」ともいえる嵐の中にあった。

というのも父親マサトが運営していた私書箱業務にも大きな出来事が起こっていた。

どんな出来事かといえば、国内の詐欺グループと思われる集団に中古ブランドブティックの所在地が悪用されていたことが判明したのだ。

テナントのオーナーや関係各位のことを考慮したとき「多大なご迷惑をおかけするのではないか」と思い、事件から数カ月後、イケゾエロミオは駅前の中古ブランドブティックの閉店を決意した。

苦渋の決断ともいえるが、これが功を成してか閉店数日後、詐欺グループの件は後腐れなく無事に解決した。

何よりも開店から閉店までのセレクトショップの来客数はたったの「1名」だった。

シルバージュエリーブランドの「イケゾエガレ&ロミオ」にとって、それは伝説といえる出来事といえよう。

ところで商標権違反による知的財産権の侵害により、父親マサトは事件に巻き込まれたことで息子たちと一緒に仕事をすることを忌み嫌い、毒親は新たなに中古車の輸出業務の国内最大手FCに加盟する。

この加盟金もイケゾエガレ&ロミオ兄弟が捻出したことは言うまでもない。

このときも兄弟は一切給料をとらず、ただひたすら実家に生活費を入れるように工面していた。

それは神戸の惣菜屋のアルバイトの時から、家畜のような生活は今だに続いていたことを示唆していた。

やはり毒親はどこまでいっても毒親にすぎず、性根はおそらく死んでも変わらない。

いやむしろ死ななければ治らないものであれば、父親マサトの性根の改善計画は絶望的といえる。

時代が時代であれば、このような毒親による仕打ちは「経済的虐待」とも呼ばれてもおかしくない仕打ちだろう。

山陽姫路駅前の中古ブランドブティック閉店、それはイケゾエロミオにとって生活の糧を失うことを意味する。

本人たちは気づいてはいなかったが、イケゾエガレ&ロミオの中古ブランド事業部を支えていたのは、リアル店舗による店舗運営ではなく(たった来店者1名では事業として成り立っていない)、ポータルサイトに出店していたネットショップであった。

リアル店舗閉店に伴い、イケゾエロミオは帳簿と自己の思い込みをすべて洗い直した。

そして気が付いたことがあった。

兄ガレから店舗運営を託されたとはいえ、店舗というより中古ブランドの倉庫化していた山陽姫路駅前の中古ブランドブティック閉店は、余計な経費を削除するうえで好都合なものであり、損失を埋めるための赤字店舗の閉店は「経営者としての英断」であったということだ。

それは失敗から成功を導きだした答えといっても過言ではなかった。

さらにもう一つ答えがあった。

中古ブランド事業部はネットの売上に依存していることから、今の時代は「ネット販売において電気と配送インフラがあれば、場所なんて正直どこでもいいのではないか。極端な話だが倉庫や小屋でも消費者は気にしない。店舗の信用はポータルサイトが請け負うので、自分たちは消費者を裏切らなければいい」という極論に辿りついたのだ。

文字どおり発想の転換であり、見栄や体裁よりも「実利」を重視する経営の大転換だった。

シルバージュエリーブランド「イケゾエガレ&ロミオ」が不動産業者から「リアル店舗の出店(テナント出店含む)」を促されても、リアル店舗経営を頑なに拒むのはこういう理由からだ。

私たちイケゾエガレ&ロミオは自分たちの才能の枠を知り、自分たちの不得意(弱点)を知っているからこそ、得意分野のWeb販売を専門としているのだ。

ある西欧の諺にいわく。
「本当の強い者とは、自分の弱さ(弱点)を知る者だ」

第四話
ジュエリーの神々の助けに続く
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