第三話:偽物ブランドをつかまされたどん底

双子の兄イケゾエガレからイケゾエロミオに経営を託された中古ブランドブティック(当時はUSEDセレクトショップと呼んでいた)は姫路駅前の山陽百貨店の裏通りにあった。

この中古ブランドブティックは小さいながらも、兄ガレが中国深圳市に仕入に行ったあとも数百万円もの融資返済も含め、弟ロミオが全責任をもって店舗運営をしていた。

ガレからロミオへと経営委託されてから1年数か月後のことだった。

あの忌々しい事件は起きた。

兄イケゾエガレがブランド仕入の際に「偽物ブランド」をつかまされ、それを日本でロミオが顧客に販売してしまい、あろうことか「商標権違反」として刑事事件となったのだ。

これは兄ガレがブランドの「真贋確認」を決して怠ったわけでなく、仕入時にブランドホルダーに真贋を確認した上で「まんまと中国の悪徳商人」に騙された、つまりカモられたわけだ。

中国人が偽ブランドを売る方法としては2種類の方法がある。

1つ目は堂々と「偽物」といって販売する方法、もう一つは「偽物と本物の部品」を織り交ぜて販売する方法だ。つまり純正品と社外品を混ぜて販売することでブランドホルダーは「改造品のため修理等の補償外」、偽物ではなく「改造品」として認識させる方法だ。

イケゾエガレは後者の「巧みに改造された製品」をつかまされたといえる。

「事件を軽んじるわけではないが、補償や損害賠償(精神的苦痛)は民民間で解決させれば良いだけであって、こんな小さな商標権違反は事件にする必要はなかった。そもそも告訴状を受理したこと自体がおかしい」

数か月間の捜査の上、警視庁の担当者はイケゾエロミオに大変に同情的であった。

事実、神戸地方裁判所姫路支部の担当検事から「君たちはUSEDブランドの仕事から足を洗った方が良い」ことを助言され、イケゾエ兄弟に罪があるというよりは、「事の原因はあなたが働かないことにある」と父親マサトを責めるほどだ。

ただ刑事事件になったことで、この仕事を続けることができなくかもしれないと思い、イケゾエロミオは大阪の宝石学校を志半ばにて自主退学をすることにした。

人生において不幸というものはときに連続するものであって、父親マサトが運営していた私書箱業務にも大きな問題が生じていた。

というのも詐欺グループと思われる集団に中古ブランドブティックの所在地が悪利用されていたことが判明したのだ。

テナントのオーナーや関係者のことを考慮したとき「多大なご迷惑をおかけするのではないか」と思い、事件から数か月後、イケゾエロミオは駅前の中古ブランドブティックを閉店する。

苦渋の決断といえるが、これが功を成してか閉店数日後、詐欺グループの件も無事に解決した。

今思えば、開店から閉店までのセレクトショップの来客数はたったの1名だった。

シルバージュエリーブランドのイケゾエガレ&ロミオにとって、もはやそれは「伝説」といえる出来事だ。

ところで商標権違反による知的財産権の侵害により、父親マサトは「自分が容疑者(主犯格)になった」ことで息子たちと一緒に仕事をすることを忌み嫌い、父親は新たなに中古車の輸出業務の国内最大手FCに加盟する。

この加盟金もイケゾエ兄弟が捻出したことは言うまでもない。

このときも兄弟が給料をとらず、ただひたすら実家に生活費を入れるように工面していた。

それは神戸の惣菜屋のアルバイトの時から、家畜のような生活は今だに続いていたことを示唆していた。

駅前の中古ブランドブティック閉店に伴い、イケゾエロミオは帳簿と自己の思い込みを洗いなおした。

そして気が付いたことがあった。

いやむしろ学び得た、いやようやく気がついたといっても過言ではない。

というのも店の売上高はネットでの売り上げに頼っており、今の時代は「ネット販売において電気と配送インフラがあれば、場所なんて正直どこでもいいのではないか」という極論に辿りついたのだ。

この考え方がシルバージュエリーブランド「イケゾエガレ&ロミオ」の骨格になっていることは言うまでもない。

第四話
ジュエリー販売による神の助けに続く..。
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