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アントワープのダイヤモンド

本日の質問

アントワープのダイヤモンドは、なぜそんなに有名なんですか?

今回は某大手の宝石専門学校生からの質問だ。

日本のダイヤモンドとアントワープのダイヤモンドの違いについてだが、ひとえに歴史と文化の違いといえる。

それでは早速だが質問に答えていこう。

まずこの質問に答える前に世界のダイヤモンド取引所に関する知識を確認したい。

原石からカットされたダイヤモンドは世界中にあるダイヤモンド取引所で取引される。

主たるダイヤモンド取引所は以下のとおりだ。

都市名(国名)取引所数
アントワープ(ベルギー)4
ニューヨーク(アメリカ)2
テルアビブ(イスラエル)2
ロンドン(イギリス)2
アムステルダム(オランダ)1
ミラノ・ヴェネチア(イタリア)2
ムンバイ・スーラト(インド)2
ヨハネスブルク(南アフリカ)1
イーダー・オーバーシュタイン(ドイツ)1
上海(中国)1

残念ながら日本には公式なダイヤモンド取引所は存在しない。

日本はダイヤモンド取引所が成立する前にダイヤモンド取引のメジャーな立場にはないということだ。

前記事にも記載したがダイヤモンドの価格は公式相場はないが、取引業者による現物相場によって取引が成立している。

証券や地金(貴金属)と違い、ダイヤモンドは生産調整が可能であることから相場による暴落や暴騰が少ないことで知られるが、サザビーズやクリスティーズなどのオークションの落札結果が現物相場による取引価格に大きく反映される。

参照元:Sotheby’s より

ダイヤモンド取引所の売買は、オープン化(公開)されておらず、豊洲市場の鮮魚の競同様に厳選されたメンバーによって行われるクローズドマーケットだ。

新会員としてダイヤモンド取引所に参加する場合、厳格な信用審査がある。

また既存の取引所会員からの推薦が必要不可欠であり、ジュエリー業界への貢献度等が審査される。

ある意味において中世ヨーロッパのギルド(職業組合)といっても差し支えない。

参照元:The Times of Israel より

ダイヤモンド取引所は職業組合の特性を継承していることから、メンバーの多数派はユダヤ人ダイヤモンド商だ。

ユダヤ人はイスラエル建国前、遥か昔から金融業(銀行家・両替商)を営むと同時にダイヤモンド産業にも従事していた。

彼らにとって金地金(ゴールド)とダイヤモンドは、ユダヤ人の伝統的な産業であり、独占的立場にある聖域ともいえる。

不可侵条約とはいわないが、彼らからの洗礼を受けずに、この聖域を土足際に侵すものならばユダヤ資本との対立がある。

さてここから本題に入りたいと思う。

ダイヤモンド取引所の発祥はベルギー王国のアントワープだ。

アントワープはベルギー王国北部フランダース地方最大の都市でり、人口数は約50万人を誇る。

ヨーロッパの主要な都市とも近い地理的優位性を活かし、交易船を使用すれば河川で物資を運搬することが可能なため、スヘルデ川という河川の右側に造られたアントワープは貿易都市として繁栄を極めた。

フランダース地方という言葉から「フランダースの犬」を思い浮かべる人もいるかもしれないが、同地方は古くから羊毛の産地で知られ、11世紀以降は英国産の羊毛を原料とするようになり、毛織物産業が大いに栄えたことで知られる。

参照元:Four Corners Images より

歴史によればアントワープにてダイヤモンド研磨が行われるようになったのは15世紀頃のことだ。

ダイヤモンドはその性質から謎の宝石であり、学者や熟練の職人たちの間で加工の研究が進められていた。

やがて職人たちはダイヤモンドを含む宝石加工機器を発明したことにより、ダイヤモンドの商品価値が高まり、アントワープは「ダイヤモンド研磨の聖地」とも呼ばれるようになった。

結果的にダイヤモンド取引が盛んになり、アントワープはダイヤモンド産業を中心とする経済体を生みだした。

ダイヤモンド産業といえばユダヤ人の存在を忘れてはいけない。

アントワープのダイヤモンド産業に従事している人々はユダヤ人が多く、業界からは「西のエルサレム」と呼ばれるほどだ。

なぜユダヤ人が多いのかといえば、ユダヤ系ベルギ―人のダイヤモンド研磨職人であるローデウェイク・ファン・ベルケムによる研磨技術の発明が影響している。

彼はダイヤモンドを含む宝石加工機器を発明した、近代ダイヤモンド研磨業の父で知られる。

研磨職人ベルケムが考案したのは「ダイヤモンドをダイヤモンドで磨く」という研磨技術だ。

それこそ「冨の独占」ではないが、当然のように特許を持っているベルケムのまわりにはユダヤ人コミュニティが誕生し、ユダヤ人によるダイヤモンド産業が構築されていく。

それ以降、ベルギーのダイヤモンド研磨職人の間ではダイヤモンドの研磨方法が秘伝の技として受け継がれ、世代ごとに改良が重ねられていく。

数百年の月日が彼らの既得権益、資本基盤のみならず権力基盤を高めていったわけだ。

こうしてユダヤ人はダイヤモンドのステークホルダーとなり、アントワープは世界有数のダイヤモンド研磨の聖地として名を馳せるようになった。

ダイヤモンド研磨の聖地であるアントワープがダイヤモンド研磨の聖地たる所以は、上記の歴史以外にも理由がある。

「どうせダイヤモンドを研磨するならばアントワープで『最高傑作』に仕上げてほしい」という要望がそれだ。

同じお金(代金)を支払うのなら美味しいお店で食事をするように、同じ料金を支払うのであれば素晴らしい研磨をするところに仕事を依頼をするのが人の常である。

というのもダイヤモンドは原石の状態からの研磨技術によって、研磨後の評価が大きく異なるからだ。

すなわちそれは取引価格及びダイヤモンドの資産価値に少なからずも影響する。

どのような方法で研磨するかによっても仕上がり具合が大きく異なるからこそ、一流の研磨技術を持っているアントワープのダイヤモンドカッター(ダイヤモンド研磨職人)に研磨依頼が殺到するわけだ。

その結果、アントワープに多数のダイヤモンド原石が集まり、アントワープは名実ともにダイヤモンド研磨の聖地たる所以ともいえる。

アントワープ以外にもインドのスーラトも世界一のダイヤモンド研磨の町として大変有名だが、アントワープのダイヤモンド研磨の聖地の立場は揺るがない。

例えばウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)の原油価格が世界の原油価格を決定するように、アントワープのダイヤモンド取引価格が世界中のダイヤモンド取引所のダイヤモンド価格決定を左右するといっても過言ではない。

つまりベルギーのアントワープは今も昔も変わらず、情報化社会の中にあっても「ダイヤモンド研磨の聖地であり、世界のダイヤモンド取引の中心地である」ということだ。

以上が今回の質問「アントワープのダイヤモンドは、なぜそんなに有名なんですか?」の私たちの答えである。

文:イケゾエガレ 編集:琳派編集部