本日は『幻の宝石といわれるブルーサファイア』について諸君と語りたい。
サファイアとは宝石名称であり、鉱物名としては学識的に『コランダム』と呼ばれる鉱石に属する。
モース硬度は「9」であり、これはモース硬度10であるダイヤモンドの次に硬いということになる。
そんなブルーサファイアの中でもカシミール産のブルーサファイアは、宝石業界において「幻の青(別称:カシミールの青)」と呼ばれるほど最高品質のブルーサファイアといえる。
その理由としてインド・カシミール地方で採掘されたブルーサファイアは、他には見られない美しいブルーだからだ。
専門用語でいえばコーンフラワーブルー、ベルベットブルーといわれており、一般的に流通している真っ青なブルーとは異なり、青空のような独特な青(澄み渡った青)が特徴だ。
インド・カシミール地方で採掘されたブルーサファイアに資産価値があるのは、この独特の青色だけが理由ではない。プレミアム的な希少性がある理由は主に2つある。
理由の1つがカシミール地方は領土の帰属問題が存在するからだ。
1947年、インドとパキスタンは英国の保護領から独立し、正式に独立国家となったわけだが、カシミール地方はヒンドゥー教徒の藩王(マハラジャ)が統治しつつも、領民の大半はイスラム教徒だった
住民自治の問題からイスラム教が国教であるパキスタンは、領民がイスラム教徒なのだからこの地はパキスタンに帰属すると主張。古くから藩王制度(日本でいえば江戸時代の藩主制度)で広大な大陸を藩王に信託し、円滑に統治してきたインドとしては、その主張は到底受け入れることができず、双方とも領土紛争に突入した。
とりわけ現在のカシミール地方(別称:ジャンムー・カシミール藩王国)は、インドが英国の保護国であった時代に英国政府の許可のもと、ジャンムー地方とカシミール地方が併合され、ジャンムー地方の旧領主を頂点に新興した藩王国である。
1949年には両国とも停戦ラインを設け、カシミール渓谷並びにサファイアの大地カシミールは分割統治された。しかもカシミールは中華人民共和国に隣することから、紛争を理由に中国も一部の地域を自国領と主張している。
理由の2つめが無計画な採掘により、サファイアが枯渇し、 採掘地域の鉱山がすべて閉山してしまい、現在ではカシミール産ブルーサファイアは宝石市場で取引することができないということだ。
この2点がカシミール産ブルーサファイアの価値を押し上げているといってもよい。
事実、極まれに還流品のカシミールサファイアのジュエリーが宝石市場にお目見えすることがあるが、希少石ゆえに数百万円からの高額取引となっている。
そもそもブルーサファイアは、『コランダム』という鉱石から産出される宝石であることは記載したとおりだが、とくに青いコランダムをサファイア、赤いコランダムをルビーと宝石業界では区分して呼んでいる。
ここで諸君に気を付けてもらいたいのが、サファイアには『非加熱 』と『加熱』 の二種類のルースが存在するということだ。ちなみに市場に出回るサファイアはほとんどが加熱処理されたサファイアである。
なぜ加熱処理をするかといえば、端的にいえば美しくするためである。
そもそもサファイアは、青色のコランダム鉱石のことだ。
採掘した青色のコランダム鉱石は岩母付きであったり、いわゆる宝石でもなければ結晶体でもない。
これを宝石研磨によって、岩を取り除き、鉱石から結晶体へと仕上げていく。
宝石研磨にて仕上げた結晶体は、残念ながらまだ「宝石と呼べる代物」ではない。
ここまでの段階を『荒研磨』と呼ぶのだが、さらに細かく研磨(細研磨)していくことによって、結晶体を諸君が思い浮かべる宝石のサファイアへと仕上げていく。
この段階において「インクルージョン」と呼ばれる天然特有の生成における不純物が混じっているわけだが、これが多いと宝石の美しさを阻害してしまう。
宝石と呼ぶには美しいことこそ「第一条件」であるため、研磨の仕上がり度によっては加熱処理を行うことにより、この天然由来の不純物を燃やし、分子レベルで化学変化を起こすことで石の透明度と色味、いわゆる宝石の純度を高めるわけだ。
研磨した宝石の純度を高めるため、加熱処理を行うかどうかの判断は宝石研磨士次第だ。
宝石研磨士が「宝石としての純度が高い」と判断すれば加熱処理されることはないが、そういったサファイアはごく稀である。
そのような経緯から非加熱のブルーサファイアの流通量は、サファイア全体の産出量の1%未満といわれている。
つまり100個中99個が通常加熱、1個が非加熱という具合だ。
ここでよく質問されるのが非加熱・加熱 の判断基準、いわゆる鑑定基準ではあるが、優れたジェモロジスト(宝石鑑定士)であれば、 ルーペを覗くだけでそれが非加熱・加熱かどうか瞬時に判断できる。
というのも非加熱・加熱の判断基準は「天然由来の不純物」があるかどうか、また液体インクルージョンの残量によって判断できるからだ。ちなみに私たちイケゾエガレ&ロミオ兄弟も非加熱・加熱のサファイアを何万個と取り扱ってきた経験則から非加熱・加熱の判断は用意にできる。
そのなかでも非加熱・加熱を分け隔てなく価値あるサファイア、つまり幻のサファイアといわれるサファイアはやはり色味と品質である。 人為的処理が施されたブルーサファイアの経緯を踏まえ、以下の3点が宝石業界では「非常に価値あるサファイア」として認知されている。
【カシミール産ブルーサファイア(別称:コーンフラワーサファイア)】
カシミールのブルーサファイアは冒頭で述べた通り、幻のブルーサファイアといっても過言ではないだろう。
カシミール産の非加熱サファイアは言うまでもなく「究極のコーンフラワーブルー」といっても良い。
絶品の青である。
【スリランカ産ブルーサファイア(別称:セイロンサファイア】
次にセイロンブルーといわれるスリランカ産サファイアは、上述のカシミール産のコーンフラワーサファイアと肩を並べるほどの美しいサファイアいわれスリランカ産は現在のブルーサファイアの一大産地といえる。
これも非加熱のブルーサファイアは非常に高額で取引されるほどだ。
諸君の記憶の片隅に置いてもらい情報がある。
かの富裕層向けオークション「クリスティーズ」では、392.52ctのクッションカットのスリランカ産のブルーサファイア「アジアの青い美人」が20.4億円で落札されたという事実だ。
このサファイアが非加熱か未確認だがブルーサファイアの取引額としては過去最高額だ。
スリランカ産のブルーサファイアは、マルコポーロの東方見聞録にもその記載が出てくるほど歴史のあるブルーサファイアといえよう。
【ミャンマー産ブルーサファイア(別称:ロイヤルブルーサファイア)】
ミャンマー産のモゴック鉱山のロイヤルブルーサファイア。
これはイギリス王室が好んで身に着けた最高級のミャンマー産ブルーサファイアの名称だ。
代々のイギリス王室(ロイヤル)が好んだゆえに「王室の青い宝石」といえる。
イギリス王室がミャンマー産のモゴック鉱山で発掘されるブルーサファイアに贈呈した王室公認の名称こそが「ロイヤルブルーサファイア」というわけだ。
最後に諸君にサファイアとイギリス王室との間の物語として次のような出来事が有名なのでお伝えしたい。
1981年、英国王室ウィンザー朝エリザベス二世の嫡子であるチャールズ皇太子が、後に妻となるダイアナ妃に18カラットの婚約指輪(エンゲージリング)を贈ったことにより、 世界中でブルーサファイアへの憧れが起こる。当然、値段も一気に高騰したという逸話がある。
その指輪は現在、チャールズ皇太子とダイアナ妃の嫡子であるウィリアム王子へと継承され、その妻であるキャサリン妃の指輪として指に収まっている。
ジュエリーは「世代を超えて何百年と代々引き継がれる物語」があるというわけだ。
もちろん私たちイケゾエガレ&ロミオ兄弟では、一般消費者向けに買いやすい価格でのロイヤルブルーサファイアのジュエリーも取り揃えているので、興味がある方はメールを頂ければ幸いだ。
本日は大変残念だがある顧客からロイヤルブルーサファイアのジュエリー特注を受け、そのデザイン及び制作業務があるため、今日はこのあたりで失礼する。
有名なブルーサファイアを知りたいです