今回はラインストーンとして名高いスワロフスキーについて語りたい。
「スワロフスキー=クリスタル」という上記の質問内容は、誤解している読者が多いのも事実だといえる。
端的に言えばスワロフスキーとは、クリスタルガラスの製造メーカーであり、スワロフスキー社のガラス製品の商標「スワロフスキー クリスタル」のことである。
スワロフスキー社製品は、近年シルバーアクセサリー等のラインストーン(名前の由来はライン川の小粒石)として使用され、ジュエリー業界でもよく目にするようになった。
このスワロフスキー社製品のラインストーンであるスワロフスキー クリスタルは、業界用語でクリスタルガラスと呼ばれているものだが、これが一般消費者にとって混乱を生じさせている。
クリスタルガラスという名称は業界におけるコマーシャル表記という点を留意しておく必要がある。
具体例をいえばルビーのピジョンブラッドルビーやワインレッドルビー、サファイアのカシミールサファイアやコーンフラワーサファイア、トパーズのスイスブルートパーズやロンドンブルートパーズ、アクアマリンのサンタマリアブルーアクアマリン、ペリドットのイブニングエメラルドといった表記のような類だ。
ここで少しスワロフスキー社の歴史に触れておきたい。
スワロフスキーとは、名称的にはロシア連邦のガラスメーカーに思えるが、実はオーストリアに本社を置く創業100年以上の伝統と歴史を有するクリスタルガラスの老舗(ブランドメーカー)である。
その創業の歴史はオーストリア・ハンガリー帝国までさかのぼる。
現在もなおその経営は、年商数千億円の大企業でありながらスワロフスキー家の氏族が代々経営の舵取りを取っている同族経営の会社(ファミリービジネス)だ。
ちなみに会社の規模は、系列会社が13社以上にのぼり、世界170か国以上にスワロフスキー社の店舗が存在している。
その数は2800店舗以上といわれ、従業員総数は延べ2万7000名余りを抱えるといわれている。
スワロフスキー創業者である初代スワロフスキー(ダニエル・スワロフスキー)は、スロバキア系民族の系譜のチェコ人だ。
当時欧州のガラス(いわゆるボヘミアンガラス)の一大生産地であった伝統ガラス工芸職人の息子であった。
ちなみにボヘミアンガラスとは、チェコの伝統産業の一つであり、イタリアのヴェネチアンガラスから派生したガラス工芸であり、ウィーン・オーストリアの皇室ハプスブルク家も愛用したといわれている。
その品質は世界中の王室関係者が認めるところであって、かのヴェルサイユ宮殿のガブリエル館にて採用された豪華絢爛なシャンデリアのクリスタルガラスもスワロフスキー社製品である。
スワロフスキー社製ラインストーンは、一般的に「クリスタルガラス」と呼ばれている範疇の製品であるわけだが、そもそもクリスタルという名称は、和名では「水晶」と呼ばれており、宝石として価値を有する貴石および半貴石のことである。
クリスタルは鉱石名では「クォーツ(石英)」と呼称され、その中でも透明度が高いクォーツの結晶体をクリスタルと宝石業界では呼んでいる。
ちなみにクリスタルにおいて誤解を増長させている名称にクリスタルクォーツというものがある。これは「石英と水晶を一色淡にした天然石の表記」といえよう。
クリスタルクォーツとクリスタルガラスは同じものではないので、改めて留意しておく必要がある。
日本では水晶(クリスタル)のことを古来から玻璃(はり)と呼び、邪気を追い払う性質のある高貴なる存在としてみなされていた歴史がある。
この玻璃だが仏教では「七宝(しっぽう)」と呼ばれる宝石に含まれることから、読者も玻璃は知らなくても七宝という言葉だけなら知っているという人は多いと思う。
ちなみに七宝とは文字通り「七つの宝」と書き、代表的なものとしては、金、銀、瑠璃、玻璃 (はり) 、しゃこ (貝) 、珊瑚(さんご)、瑪瑙(めのう)の七つの宝石であり、現代でも七宝はジュエリーの素材として使用されている。
古代天皇家の宝蔵であった、正倉院の宝物目録の中にも石英(クォーツ)と水晶(クリスタル)のことは記載があるほどだ。
それは古代日本社会においても、水晶(クリスタル)が宝石として価値を有していたことを垣間見ることができる事案といえる。
水晶のなかでも天皇家が愛した宝石が「紫水晶(アメジスト)」だ。特に紫という色は、公家等のみが使用できる特権階級を誇示する高貴な色とみなされていたことから、紫水晶は貴族の中で重宝された。
国家には国旗、国歌、国花というものがあるように「国石」というものがある。
日本の同盟国であるアメリカの国石はサファイア、ちなみに我が国は「ヒスイ」「水晶」とされている。これはあまり知られていないので宝石商を目指すのであれば、覚えていても無駄はない。
さてクリスタルにおいて日本でも「パワーストーン」としても市民権を得ている代表的なクリスタルといえば、以下の5つだろう。
アメジスト(紫水晶)、シトリン(黄水晶)、ローズクォーツ(紅水晶)、煙水晶(スモーキークォーツ)、針入り水晶(ルチルクォーツ)の五水晶だ。
したがって質問の統括であるが、スワロフスキーとは欧州の高級装飾用のクリスタルガラス「スワロフスキークリスタル」のことである。
名称にはクリスタル表記されているが、それはスワロフスキー社の登録商標であって、天然由来の成分であるクリスタルのことではないということだ。
また余談であるがスワロフスキー社ではないが、クリスタルガラスは日本でも江戸切子や薩摩切子といった硝子工芸品にも使用されている素材でもあることは興味深いところであろう。
本サイトでは一般消費者向けに買いやすい価格のスワロフスキークリスタルを使用したイケゾのジュエリーも取り揃えているので、興味がある方はメールを頂ければ幸いだ。
文:イケゾエロミオ 編集:琳派編集部
今更なんですがスワロフスキー・クリスタルって、天然クリスタルなんですか?