今回の質問者は、私たちと同じジュエリーデザイナーを志している宝石専門学校生(男性)からの質問だ。
まず最初にデビアスについて述べさせてもらう。
デビアス(De Beers)とは、英国を本拠地とするダイヤモンドの採掘から販売に至るまですべてを支配したダイヤモンドカルテルだ。
1876年、英国領ケープ植民地(現在の南アフリカ共和国)のダイヤモンド鉱山から発祥した会社であり、かのロスチャイルド家も参画するユダヤ資本によるダイヤモンド企業だ。
社名の由来は創業者の名前ではなく、デビア兄弟(二人称のためデビアスとなる)所有の農場からダイヤモンドが発掘された経緯から命名されている。
ユダヤ人は一番最初に井戸の水を掘った人間に対して、その名を冠するほど相手に敬意を表す。
デビアスの名称由来もユダヤ人らしい命名流儀だといえる。
かつてデビアスは世界のダイヤモンド生産の世界シェアを9割ほど握ったことで知られるが、第三国の台頭とダイヤモンド市場の自由化により、現在のデビアスダイヤモンドにそこまでのシェアはないが、それでも年商1兆円(日本のジュエリー業界全体規模と同等)の売上を誇ることから世界最大のジュエリー会社であることは間違いない。
そのことをふまえて本題に入らせてもらう。
長年、デビアスはラボグロウンダイヤモンド(合成ダイヤモンド)の流通においてはその存在さえ認めなかった。
それは当然だ、自分たちが天然ダイヤモンドを採掘する能力があるのだから、わざわざ天然ダイヤモンドの価値を下げかねないラボグロウンダイヤモンドを認めることはない。
しかし創業から約150年も過ぎれば、デビアス社を取り巻いている環境は大きくと変わる。世界のダイヤモンド生産の世界シェア9割を牛耳っていたデビアス、そのシェア率は50%まで低下していた。
2010年代には合成ダイヤモンドの生産技術が確立されたのをきっかけにデビアス社は「ラボグロウンダイヤモンド」の参画を発表した。
これらの発表は関係者にとって寝耳に水であり、担当者によって18ヶ月の間、このプロジェクトは極秘で進められていた。
満を持して2018年のラスベガスで開催されたジュエリーショーでの正式発表となったものの、当然のように賛否両論が巻き起こり、業界内でも物議をかもした。
ラボグロウンダイヤモンド(合成ダイヤモンド)を公式に「本物」のダイヤモンドと認め、自らもブランド「Lightbox(ライトボックス)」を確立する戦略に舵をきったのだ。
このデビアスの発表は多くのダイヤモンドホルダーを驚かせただけでなく、宝飾市場を二つにグループに分けた。
ラボグロウンダイヤモンドを本物のダイヤモンドと認めるグループと認めないグループの二極化だ。
残念ながら今も業界内でのこの紛争は続いており、ラボグロウンダイヤモンドをめぐっての解決策及び解決案には示されてはいない。
ラボグロウンダイヤモンドを本物のダイヤモンドと認めるグループからしてみれば、中小の宝石商がデビアス社の「ライトボックス」の販売価格をベンチマークとして、ラボグロウンダイヤモンドのジュエリーブランドを展開させることとなった。
参考のために以下に「Lightbox(ライトボックス)」の価格を記載する。
【Lightbox(ライトボックス)/裸石】
※1ドル=145円換算
1.00ct 800ドル(116,000円)
0.75ct 600ドル(87,000円)
0.50ct 400ドル(58,000円)
0.25ct 200ドル(29,000円)
デビアスのラボグロウンダイヤモンドのルース価格(裸石)は1ctあたり800ドルだ。
これがラボグロウンダイヤモンドの相場であり、日本円で換算すれば116,000円(1ドル=145円換算)となる。
ここにジュエリー制作費+鑑別書代が加算されれば、概算で18万円前後となる。
つまりデビアスのライトボックス価格こそ、ラボグロウンダイヤモンドの価格指標であり、小売業者が参考とする販売価格といえよう。
その意味からデビアス社のラボグロウンダイヤモンドブランド「Lightbox(ライトボックス)」は業界にとって革新的なものがあったというわけだ。
斜め横の見方をすれば、天然ダイヤモンドの世界シェアの低下に悩んでいたデビアスがラボグロウンダイヤモンドでの世界シェア90%を確立するため、ラボグロウンダイヤモンドを公式に「本物」のダイヤモンドと認めたといってもよいかもしれない。
ちなみに私たちイケゾエガレ&ロミオのジュエリー作品には、ラボグロウンダイヤモンドを豪華に使用したジュエリーもあるので、興味がある方はメールを頂ければ幸いだ。
これが今回の質問「デビアス社のラボグロウンダイヤモンドとはどんなものですか?」の私たちの答えである。
デビアス社のラボグロウンダイヤモンドとはどんなものですか?